女子高生の睦(むつみ)と、いっしょにクトゥルフ神話 TRPG を学んでいくお話です。 題材はクトゥルフ神話ですが、どんな TRPG にも言える一般的な心構えや、シナリオの作り方のコツなども載っているので、クトゥルフ神話以外の TRPG をやってみたいという人にもオススメできる本です。 なお、クトゥルフ神話 TRPG では、ゲームマスター (GM) のことをキーパーと呼びます。
ここでは、プレイヤーの心得、キーパーの心得、シナリオの作り方のコツなどをまとめておきます。
プレイヤーの心得
ルールブックのこの一文に、探索者としての心得は集約されている。 何か怖そうなことが起こったときに、ただ引き籠っていたら話が進まない。 事件には好奇心を持って臨むこと。
キーパーは敵ではない
キーパーはプレイヤーの邪魔をするかもしれないけど、困らせようとしているのではなく、楽しませようとしてやっていることを理解してプレイしよう。
自由は断るためのものではない
プレイヤーが自由に行動できるというのが TRPG のウリだけど、NPC からお願いされたことをむげに断るというのが自由ではない。 断ることよりも協力することを考えよう。 どういう状況であれば探索者が協力するのか考え、ストーリーをみんなで楽しみながら作っていくのがよい。
命は大切に
クトゥルフ神話 TRPG は死にやすい。 事件に対して積極的になるべきといっても、何にでも突っ込んでいけばいいというわけではない。 「事件や謎の解明」と「命を大切にすること」はバランスよく考えてプレイしないといけない。 不幸にも探索者が死んでしまった場合はネガティブにとらえず、死にゆくときを精一杯楽しむのがよい。
探索のノウハウ(便利な行動集)
- 図書館で調べる。図書館に行って事件について調べるという行動は、プレイヤーにとっても、キーパーにとっても便利な行動。ただし、<図書館>の技能ロールは、4 時間程度かかる行動であることに注意。
- 新聞社に行く。交渉力があれば、記者に話を聞いた方が、図書館で調べるよりも早い。ファンタジー RPG でいうところの酒場。
- 日記を読む。クトゥルフ神話では、登場人物の日記がよく登場する。誰かの部屋を調べるときは、まずは「日記を読む」と宣言するという冗談がある。プレイヤーと敵対する NPC の情報を提供するには、日記という手段はもってこい。
- 魔道書を読む。日記と並んでよく出てくる情報源。クトゥルフ神話に関する禁断の知識が記されている。読むと正気度が下がったりするが、引き換えに呪文を覚えられたりする。
- 現場を調べる。事件に遭遇したら、まずは現場を調べることから入って間違いない。この辺りのノウハウは、刑事ドラマや推理小説が参考になる。
- 聞き込みをする。自分のセリフに NPC がダイレクトに反応してくれるのは TRPG ならではの魅力。クトゥルフ神話 TRPG では、聞き込みに必要な <言いくるめ><説得><信用><心理学> といった技能が充実している。
探索者の設定/知識
探索者は知り合い同士にしておいた方が、すぐに協力体制をとることができてゲームの展開が早くなる。 探索者とプレイヤーの知識は別物として扱わなければならないが、何も知らないはずの探索者に、どうやってプレイヤーの知識に基づいた行動をさせるのか考えるのもこのゲームの面白さのひとつ。
狂気に陥ったとき
これまで正常だった仲間が、狂気に陥った途端に人が変わってしまうという恐怖をプレイヤーの方から演出できるのはクトゥルフ神話 TRPG の大きな魅力。 ただ、狂気に陥ったからといって何をしてもいいというわけではない。 いきなり銃を乱射するような周りに迷惑をかけるような行動はダメ。 あくまで周りを楽しませるようなロールプレイをしよう。
キーパー (GM) の心得
全員に行動させる
何より大切なことは、プレイヤー全員に行動の宣言をしてもらうこと。 消極的なプレイヤーや、考える時間が長いプレイヤーのことも考えて、それぞれに発言の機会を与えてあげないといけない。
探索者に挑戦する機会を与えて、プレイヤーに満足感を与えてあげることが大切。 シナリオ上、最終的に行き着く先が同じであっても、プレイヤーに自分の意思で行動しているのだという実感を持ってもらうようにする。
探索者の操り方
探索者にやってもらいことをさりげなく伝えるテクニックがいくつかある。
- 行動の選択肢を提示する。露骨に二択とかで提示するのではなく、例えば、状況説明から調べる場所の目星が付くようにしてから、どこから調べるかを尋ねるというやり方が良い。地図や間取り図を見せるのも効果的。
- NPC を利用する。キーパーがしてもらいことを直接伝えると、押し付けがましくなってしまうが、NPC が行動を提案するとマイルドに感じてもらえる。ただし、完全に信頼できる NPC から提案すると、探索者は 100% その発言に従うようになってしまうので、多少は頼りなかったり、怪しい NPC に提案させるのがよい。
- 描写を淡白にする。本筋に関係のないシーンでは、状況説明を簡潔に済ませることで、プレイヤーに余計な行動を取らせないようにするのがよい。説明のメリハリを付けることで、プレイヤーをうまくシナリオの本筋に誘導していく。
NPC は脇役である
NPC 同士で会話をするのはできるだけ避ける。 主役はあくまで探索者なので、脇役の NPC の会話だけで話が進んでいくのは面白くない。
展開は柔軟に
あまり無理にシナリオ通りに話を進めようとすると、プレイヤーが不満に感じてしまう。 キーパーはあまりシナリオに縛られず、展開を変更したり、イベントをカットしたりする柔軟性も必要。
なりきってもらうシーン
プレイヤーにいつも探索者になりきってもらう必要はないが、重要なシーンでは、それを要求した方が緊張感が高められる。 例えば、<言いくるめ> や <説得> のロールをするには、心を動かされるような内容で尋ねないとダメだとプレイヤーに伝えればよい。
シナリオの作り方のコツ
大切なのは、どんなことをしたらプレイヤーが楽しんでくれるかということ。
NPC の性格の設定
キーパーは、その NPC に対して探索者がどのような感情を持つのかを意識して、それに特化した NPC を設定するとよい。 プレイヤーの感情として動かしやすいのは、「同情」「怒り」「感謝」といったもの。 逆に、「尊敬」「恐怖」といった感情は動かしにくい。
事件の導入部の設定
- 巻き込まれ型: 探索者が事件に巻き込まれるという設定のメリットは、スピーディに話を進められること。一方、その展開を強引に感じてしまう欠点もある。事件に取り組むべき動機を 2 つ以上設定しておくとよい。
- 依頼型: NPC からの依頼でストーリーを進めていく方法のメリットは、依頼主から、何をすればいいのかを明確に伝えられること。一方、探索者が依頼を受けてくれないかもしれないという不安は残る。探索者の性格に応じた報酬を設定してやり、気持ちを盛り上げるとよい。
どちらの場合も、設定として重要なのは「それぞれの探索者が事件を受ける理由」。
事件の原因の設定
事件の**「原因」はしっかりと設定しておくべき**。 そして、その「原因」は探索者の手の届くところに用意しておく。 どんなに斬新な「原因」を用意しても、それをプレイ中に探索できなければ意味がない。
事件の解決方法の設定
事件の解決方法を探す(考え出す)のは探索者の役割だけど、キーパーは事件の解決方法を 1 つは考えておくこと。 そして、実際のプレイではその解決方法だけにこだわらないこと。
それ単体では何の役にも立たないけれど、思わせぶりなアイテムを用意するとよい。 事件の解決手段が段階的に得られるようになっていると、プレイヤーに達成感を与えることができる。
クリーチャーを戦闘で退治するという展開のシナリオであれば、プレイヤーにあらかじめ戦闘用の技能が必要であることを伝えておくこと。
情報源の設定
「原因」を導き出すための情報源と、「解決方法」を導き出すための情報源を、それぞれ 2 つずつは用意しておくこと。
1 つの決定的な情報源を用意するのではなく、複数の情報源を用意して、得られる情報を断片的なものにしておくのがよい。 情報源が 1 つの日記だけというのは、それを発見できないというリスクがあるだけでなく、日記を見つけること以外のプレイヤーの行動が徒労だと感じてしまう。
それを手に入れないとゲームがまったく進まないという情報源はできるだけ設定しないこと。 どうしても必要なら、その情報源を複数の手段で得られるようにしておく。
プレイヤーの記憶は曖昧で、口頭で伝えたことは忘れてしまうことが多い。 重要で密度の濃い情報は、紙に描いたものをプレイヤーに渡しておくとよい。
狂気の内容の設定
狂気の内容はキーパーが決めてよいことになっている。 怪しいものを強調するために <正気度> ロールは活用できるが、それによって不本意に狂気に陥ってしまうことはある。 仮に序盤で 1D10 の正気度が減るイベントが発生して不定の狂気になっても、事件の解決に執着するという狂気に陥るという設定にしておけば、探索者がゲームから脱落してしまうことは防ぐことができる。
突発的な事件の設定
突発的なショッキングな事件が発生するようにしておくと、プレイヤーを飽きさせない。 そういった事件は任意のタイミングで発生させられるようなものを用意しておき、ここぞというタイミングで発生させる(プレイヤーが退屈そうにしているときなど)。
その他・ルール全般
キャンペーンシナリオ
キャンペーンというのは、1 つのゲームが終わったとき、探索者を使い捨てにしないで次のゲームに引き継ぐプレイの仕方。 クトゥルフ神話 TRPG では正気度も引き継がれる。 1 回のプレイで完結できないような大掛かりなシナリオを、分割してプレイできるようにしたものをキャンペーンシナリオという。
プレロールドキャラクター
プレロールドキャラクターとは、キーパーが能力値や技能、設定の一部をあらかじめ設定しておくキャラクターのこと。 「失踪した父親を探している」といった設定や、職業などをあらかじめ決めておくと、キーパーとしてはやりやすくなる。
技能ロールをする 3 つのタイミング
- 探索者が行動宣言 → キーパーがロールを指示する
- キーパーから技能ロールを指示する
- 探索者から技能を使うと宣言して、キーパーの指示に従う
いずれの場合も、キーパーが指示してからロールするのがポイント。