D3.js の宣言的なアプローチ
D3.js を使ったビジュアライゼーションでは、配列データを描画要素と対応付ける(データ結合する)とき、次のようにメソッドをチェーンさせる記述方法がよく出てきます (selectAll()
→ data()
→ enter()
→ append()
)。
最初はとっつきにくいかもしれませんが、この記述方法は、D3.js が 宣言的プログラミング (Declarative Programming) のアプローチを採用した結果であり、これがあるからこそ D3.js のコードはシンプルに記述できるようになっています。
「宣言的」という言葉は、「データが最終的にどのように表現されるべきか」 をコードで表現するアプローチを指します。 その表現に到達するための詳細な処理手順をコーディングする必要がなくなるため、コードが読みやすく、不具合が発生しにくくなります。
D3.js によるデータ結合処理は、一般的に次のような流れで実装します。
selectAll()
メソッドで、データの結合先にする描画要素群のセレクションオブジェクトを作成する。この段階では、描画要素は存在しなくてもよい(初回の呼び出し時には描画要素数は 0)。data()
メソッドで、データ配列を上記の描画要素群にマッピングする。- 3 種類のセレクション (enter/exit/update) に対する処理を定義する。
次に、3 種類のセレクションについて説明します。
データ結合時の 3 つのセレクション
D3.js のデータ結合では、次のような 3 種類のセレクションに分けて描画内容を定義します。
セレクション | 説明 |
---|---|
enter セレクション | 「データ数 > 描画要素数」のときに、新しい描画要素を追加する処理 |
exit セレクション | 「データ数 < 描画要素数」のときに、不要な描画要素を削除する処理 |
update セレクション | データが更新されたときに、既存の描画要素の表示を更新する処理 |
enter セクション
enter セレクションは、データ数の方が既存の描画要素数よりも多いときに、追加すべき要素を参照するためのセレクションです。
要は、enter セレクションに対して、新しい描画要素を追加する処理 を定義すれば OK です。
enter セレクションを取得するには、data()
メソッドの戻り値のセレクションオブジェクトに対して、enter()
メソッドを呼び出します。
データが動的に変更されることがない Web サイトであれば(あるいは「追加」されていくのみのサイトであれば)、この enter セレクションの定義をすればデータ結合の実装は完成です。 逆に、データが増減したり、内容が変化したりするサイトの場合は、後述の exit、update セレクションの定義が必要になります。
exit セレクション
exit セレクションは、enter セレクションとは逆に、データ数が描画要素数よりも少ない場合に、その超過分の描画要素を選択するための D3 セレクションです。
exit セレクションに対して、描画要素を削除する処理 を定義するようにします。
exit セレクションを取得するには、data()
メソッドの戻り値のセレクションオブジェクトに対して、exit()
メソッドを呼び出します。
上記のように、exit セレクションに対して単純に remove()
メソッドを呼び出すと、データが減ったときに、それに応じて不要な描画要素 (circle
) が削除されます。
データ配列 (data
) の内容を変更した後で、上記の処理を再び呼び出す必要があります。
描画要素を削除するときに、アニメーションさせたいときは、次のように transition()
を組み合わせて使用します。
update セレクション
update セレクションは、データに対応する描画要素はすでに作成済みだけど、データの内容が変化したので描画内容も更新しなければいけない要素群を選択するためのセレクションオブジェクトです。
data()
メソッドの戻り値が update セレクションです。
例えば、次のような 2 つのデータ配列を用意して、データ結合するデータを oldData
から newData
に入れ替えることを考えてみます。
const oldData = [
{ id: 1, color: "red" },
{ id: 2, color: "red" },
{ id: 3, color: "red" },
];
const newData = [
{ id: 1, color: "blue" },
{ id: 2, color: "blue" },
{ id: 4, color: "blue" }, // 3 つ目のデータは id が異なるため別のデータとみなされる
];
ここで問題となるのが、古いデータ配列 (oldData
) のどのオブジェクトが、新しいデータ配列 (newData
) のどのオブジェクトに対応しているかです。
上記のデータでは、id
プロパティをデータオブジェクトの識別子として使えばよさそうです。
データオブジェクトの識別子として使う値は、data()
メソッドの第 2 引数のコールバック関数の戻り値として返すように実装します。
// oldData をデータ結合するとき
const circles = svg.selectAll("circle").data(oldData, (d) => d.id)
// newData をデータ結合するとき
const circles = svg.selectAll("circle").data(newData, (d) => d.id)
oldData
と newData
の中のデータオブジェクトのうち、先頭の 2 つは id
プロパティの値が共通 (1, 2) なので、update セレクションではこれらに対応する描画要素が選択されることになります。
一方、3 つ目のデータオブジェクトは、id
が 3 と 4 で異なるので、データの更新とはみなされず、id: 3
のデータが削除され (exit)、id: 4
のデータが追加された (enter) とみなされます。
便利な join メソッドを使う
ここまでの例では、3 種類のセレクションを取得するために、次のようなメソッドを使っていました。
enter()
メソッド … enter セレクションの取得data()
メソッド … update セレクションの取得exit()
メソッド … exit セレクションの取得
これらの代わりに、join()
というユーティリティメソッドを使うと、各セレクションを処理するための関数を引数で指定することができます(引数の順番を間違えないように注意してください)。
selection.selectAll("circle").data(data, (d) => d.id)
.join(
function (enter) { /* enter セレクションを使った処理 */ },
function (update) { /* update セレクションを使った処理 */ },
function (exit) { /* exit セレクションを使った処理 */ }
)
下記は、データ配列 (data
) の内容に基づいて描画要素の作成・更新・削除を行う関数の定義例です。
join()
に渡す 3 つの関数は、戻り値として自分自身のセレクションオブジェクトを返さないといけないことに注意してください。
多くの場合、より簡潔なコードにするために、次のようにアロー関数を使って記述します。 可読性はあまり高いとは言えないですけど(^^;
よく見ると、enter セレクションと update セレクションの処理内容の差は append("circle")
の部分だけです。
実は、join()
メソッドの戻り値は enter セレクションと update セレクションをマージしたものになっており、共通の処理はこのセレクションオブジェクトを使って定義することができます。
そして、update セレクションと exit セレクションの処理が上記の実装でよければ、これらの引数は省略することができます。
さらに、enter セレクションの処理が、上記のような append()
だけであれば、次のような省略記述が可能です(第 1 パラメーターが関数から文字列に変わります)。
とてもスッキリしました。
٩(๑❛ᴗ❛๑)۶ わーぃ
この記述方法は、多くの D3.js プロジェクトで利用されています。 ここまでの内容を理解していれば、どのような描画処理を定義しているのか読み取れるようになっているはずです。