Abema TV で大躍進を続けている(今年 1000万 WAU を突破!)サイバーエージェントが、かつてメディア事業にかじを切った経緯などが述べられています。
2006 年の当時、サイバーエージェントには CAJJ 制度というものがあり、赤字の上限を超えた事業は撤退しなければいけませんでした。 でも、メディア事業であるアメーバだけは例外として進めました。 現在、先行投資を続けている Abema TV も同じ方針なのでしょう。
メディア事業では最初は売り上げを見ずに、ページビューだけを追求する。 そうした会社の方向転換には、みんな簡単にはついてきてくれなかった。
これまでにない収益構造で赤字を出しながら事業を進めていくには、大変な勇気がいると思います。 藤田氏はどのような決断を下していったのか・・・
ネット業界で大きくなっていくためには、何よりも強いメディアを持つことが必要不可欠な条件だった。
アメーバを含むメディア事業で、身をもってこういった経験をしてきたからこそ、今 Abema TV で視聴率を上げることに力を入れ続けているのでしょう。 社長がこういった強い意志を持っている会社は強いですね。 この方針は意地でも貫き通すと気持ちが伝わってきます。 社員も目標を持って働きやすいと思います。
当時のサイバーエージェントの上層部にはエンジニアは一人も存在していませんでした。 だから、ユーザー向けに面白いサイトを作り上げることが、どれだけ難しいことか、理解すらしていなかった。 また、買収は時間を買うという意味がありますが、ネット業界において、先行するメリットが、1年早いことが金額に換算してどれほど大きなことなのか、本当の意味では分かっていなかった。
今でこそ会社の上層部には技術的志向の強い人が必要だというのは常識になっていますが、インターネット系の事業がどうあるべきかを模索していた時代にはいろいろと失敗があったようです。 サイバーエージェントも2000年のマザーズ上場後、4年連続で営業赤字を出していましたが、優秀なエンジニアの大切さ、メディアを持つことの大切さに気付いてからは黒字で成長を続けています。 ネットメディアの場合、ページビューを伸ばすのに必要なのは、コンテンツの力が3割、残りの7割は技術力、と言っています。 Abema TV が驚くべき選局スピードを達成できているのは、技術に力を入れてきた成果なのでしょう。
新卒採用位に優秀な人材を獲得しておかないと、中途採用だけで人材を揃えるのは困難です。 優秀な人材は新卒で大企業に入ってしまうと、簡単には辞めず中途市場に出てこないからです。
サイバーエージェントでは、終身雇用を目指し、長く働く人を奨励するというメッセージを打ち出しています。 終身雇用というと時代の流れに逆行しているようにも感じてしまいますが、藤田氏は社員を大切にする会社になるという意思を持って会社を育てています。 このようなメッセージを打ち出したことで、社員が元気な姿を取り戻していきました。 福利厚生に力を入れるのも、「社員を新たに採用するのにかけるコストよりも、長く働いてもらうためにお金を使った方が安くて効果的」という合理的な判断のもとに行っています。
- 会社が「社員を大事にするよ」と呼びかければ、社員も「会社を大事にしよう」と応えてくれる。
- 外から採用した人を最初から上層部に登用することはない。中で頑張っている人がしらけるようなことはしない。
こういった考え方って、ほとんどの企業ができていないと思います。 大企業の天下りのような人を雇ってきて、いきなり経営陣に組み入れるというやり方が横行しています。
新規事業に投資する際の基準となるルール(CAJJ制度)を作った。 このルールに則ってさえいれば、いくらでも新規事業の立ち上げ数を増やすことができる。
先行投資は、
- 1年半で黒字化しないと撤退
- 赤字に下限を設ける
という2つの柱のもとに進めており、「小さく生んで大きく育てる」ためのベースになっているようです。 確かにこのやり方であれば、先行投資にかかる費用も見積もりやすいです。 サイバーエージェントが連結業績で黒字を出し続けていることも納得できます。 ただ、1年半で黒字化というのはなかなか厳しいですよね。 事業も限られそうですが、このあたり何かコツがあるのか聞いてみたいです。
メディア事業を育てるために社長がやったこと
インターネットメディアの力に皆が気付いていないころ、藤田氏は、自分がメディア事業に力を入れていることを社員に伝えるため、自分自身が変わらないといけないことに気付きました。 下記は、そんな藤田氏が具体的にやってきたことですが、経営者が社員に意思を伝えるためのよい見本になると思います。
- 7年過ごしたマークシティ21階の社長室を離れ、アメーバ事業部が入るビルに社長室ごと移動した。
- 自分のスケジュールをアメーバ関連の予定で全て埋め尽くした。
- スーツを着るのをやめた(話しかけにくいイメージを作らない)。
- 期限までにページビューが〇億超えたら熱海旅行、△億超えたら沖縄旅行というインセンティブを設定した。目指すのはページビュー1本であることを伝えた。30億ページビューを目指す!という目標が浸透し、組織が一つになっていった。
- 自分にも正しいかどうか分からないが、ブレる姿だけは決して見せないようにした。
- 2007年にプロデューサー組織を初めて作った。彼らの目標は「ページビュー数」ただ一つ。とにかくページビュー数を伸ばせば評価されるという組織にした。
- 一番重要なのは、サーバーのレスポンスを上げること。快適なレスポンスが最もページビューに影響する。
- ユーザー視点からブレたサービスは、世に出さないと決めていた。どんなに時間をかけて開発したサービスでも、私がOKを出さない限り、絶対にリリースさせない。知らない広告枠が勝手に追加されていたら、「誰がやったんだ!」とスタッフが硬直するほど怒った。
- 社外の方との会食を極力減らし、アメーバの社員、特に技術者と食事に行く回数を増やした。
成功を重ねるたびに孤独の度合いは増していきます。それでもなぜ前に進もうとしているのか──
「それをはるかに上回る希望があるから」
起業家の人生は、その言葉に尽きるのかもしれません。
最近売られているテレビのリモコンには、Abema TV を起動するための専用のボタンが付いていたりします。 私も家に帰るとこのボタンを押してテレビを起動することがあります。 地上波放送ではなく、まずは Abema TV を見るという人も増えてきているように感じます。 今後このメディアがどのように発展していくかは分かりませんが、起業家としての信念を貫き続ける藤田氏の試みを応援したいと思います。