まくろぐ
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タイムトラベルものの小説のひとつ、というかそのジャンルを確立させたとも言われているのがこの『夏への扉』です。 ロバート・A・ハインラインがはるか昔の1956年に書いたものですが、今読んでもまったく色褪せておらず、夏になると読み直したくなるという人が多いというのも納得です(別に夏に読む必要はないけどね)。 日本で SF ランキングを取ると今でも上位に出てくるので、日本人の感性に合っているのかもしれません。 そして、長い年を経て(65年!)、今年ついに映画化 されました。 なんと舞台は日本です。

原作では1970年と2000年の間を時間旅行する設定になっており、ハインラインが1950年代に想像した2000年の世界が描かれているのですが、さすがにインターネットの登場までは予想できなかったらしく、情報のやりとりが手紙だったり、新聞が配達チューブで届くところなんかは時代を感じさせます。 それでもリアリティが損なわれていないのはさすがです。

ちなみに、物語に登場する牡猫のピートは、ハインラインが実際に飼っていた猫のピクシーがモデルみたいです。 ピートは決しておとなしい猫ではないけれど、その振る舞いの描写から、著者の猫への愛が伝わってきます。 しかし、この傑作をハインラインはわずか13日間で書き上げてしまったというのは本当でしょうか?

ストーリーまとめ

以下、あらすじ、まとめ、ネタバレ注意です。 章のタイトルは私が勝手につけました。

第1章 逃亡

主人公(ダン・デイビス)は、コールドスリープして未来にいきたい理由をつらつらと語り出す。 ベル・ダーキンと、マイルズ・ジェントリーのいなくなった世界に行きたい。 もうあの2人と関わりたくない。 目標は30年後の西暦2000年だ。 猫のピートも連れていきたい。

コールドスリープに入る前の身体検査で医者に言われた。

「きみはどのくらいの期間このどんちゃん騒ぎを続けている?」

▼デイビスは黙って「2週間あまりです」と答えるが、まだ読者には何のことなのか分からない。

デイビスは手続きを済ませ、翌日コールドスリープに入ることが決まった。

第2章 裏切り

人間の新陳代謝を止める方法は、1930年代から理論的には実現可能であることが知られていた。 しかし、実際に何に使われていたかというと、戦争だった。 人間を兵器のように保存しておいて、必要なときに蘇生させるのだ。 戦争が終わると、この技術がコールドスリープとして保険会社の商品として扱われるようになった。

デイビスはドライブインで食事を済ませて落ち着くと、本当にコールドスリープに入っていいのか自問自答を始める。 この状況から逃げ出すことが正しい答えなのか? ベルとマイルズの問題は片付けなくていいのか? いや、今からマイルズのところに行ってぶん殴ってやる!

マイルズ・ジェントリー は、徴兵時代の親友だった。 その娘の リッキー(フレデリカ)が、猫のピートの世話をしてくれていた。

デイビスとマイルズは、一緒に事業を始めた。 ハイヤーガールの制作だ。 賢い掃除ロボットしてヒットし、その後、ベル・ダーキン という女性が仲間に加わった。 株式会社の登録も済ませ、開発のほとんどを担当していたデイビスは51%の株式を保有することになった。 デイビスは容姿端麗なベルに惚れて、事業の拡大が落ち着き次第結婚しようという約束をした。 だから、持株の一部も彼女に譲渡した。

一方、マイルズの娘のリッキーは激しく嫉妬していた。 小さい頃、デイビスと恋人ごっこをして将来結婚しようと約束していたからだ(年は大分離れているが)。

ベルは猫のピートのことも好きだった(かのように見せかけていた)。 それはデイビスが好きなものを自分も好きなのだと思わせるためだった。

ある日、マイルズの提案で緊急の株主総会が開かれることになる(3人だけだが)。 マイルズからのとんでもない株主提案は2対1で可決されることになり、デイビスはベルから「相当なおバカさんね」と捨てゼリフを吐かれる。 デイビスの知らないうちに、マイルズとベルは結婚していた。 2人に裏切られたデイビスは解雇され、いつの間にかベルによって強制的にサインさせられていた書類によって、5年間は同業種に就くことさえ許されない状態になっていた。 最後に発明した「万能フランク」も消え去っていた。

第3章 口論

デイビスがマイルズの家に到着すると、ベルもそこにいて、3人の壮絶な口論が始まる。 デイビス vs マイルズ&ベルという構図だったが、最後に「どうしてベルは2人に近づいたのか?」という核心に迫りそうになると、ベルの態度が豹変する。 そのとき、デイビスはうかつにもベルに背中を見せてしまった。

第4章 冷凍睡眠

ベルが本性を表し、デイビスは薬で催眠状態にされてしまう。 デイビスの荷物の中からコールドスリープの書類を見つけたベルは策略を練り始める。 ベルは書類を偽造するために、マイルズに会社のタイプライターを取りに行かせようとするが、そのとき、デイビスが乗ってきたはずの車がなくなっていることに気づく。

翌朝、まだ催眠状態のデイビスは2人に連れられてコールドスリープのための冷凍場(サンクチュアリ)までやってきた。 デイビスはなされるがままにコールドスリープに入ってしまう。

第5章 目覚め

コールドスリープから目覚めたデイビスは、色々な感情が混ざり合っていたが、意識や記憶ははっきりしていた。 まずは何よりも西暦2000年の様子を見たかった。 そういえば、猫のピートは入れてもらえなかったが、30年後のこの世界でもまだどこかで生きているだろうか。

ドクターの話を聞く限り、2000年の世界に来ていることは間違いなさそうだ。 新聞のレイアウトはそれほど変わっていないが、印刷された写真が立体に見える。 よく見ると、冷凍場から発表される「入場者」と「退場者」のリストが載っている。

デイビスはリッキーの所在を確かめることを何より先にしようと考えた。 冷凍場を後にすると、保険会社のオフィスで「シュルツ夫人」なる人物から電話があったと知らされる。

第6章 西暦2000年

サンクチュアリ(冷凍場)を出るとき、いろいろな事情で結局全財産は 400 ドルしか残っていなかった。 滑走道路のステーションで一晩過ごそうとしただけで30日の禁固刑を言い渡されてしまったが、2日目にはなんとかグレート・ロサンゼルスで職に就くことができた。 それは失業対策のための水増し雇用だったが、デイビスは新世界のロサンゼルスを気に入った。 風邪というものは一掃され、重力制御法が発見されて物体の移動が楽になっていた。

デイビスは技術職に戻りたかったので、(30年前に自分が作った)ハイヤーガール株式会社に就職した。 憎きベルとマイルズはそこにはおらず、金銭的な問題もあって、デイビスは2人を探すことを諦めてしまう。 ただし、たった1人の肉親であるリッキーの行方だけはつきとめたかった。 コールドスリープに入る前に、ハイヤーガールの株をリッキーに譲渡するように手配していたのだが、信託先のバンク・オブ・アメリカの記録にはリッキーの名前はなかった。

デイビスの技術知識はもはや時代遅れのものになっていたので、ハイヤーガールは主に宣伝効果を目的としてデイビスを雇うことにした。 いくつかの雑誌に創業者デイビスの広告が載った頃、再びミセス・シュルツなる人物から電話がかかってきた。 会社で電話に応じると、それはあのベルだった。

第7章 シュルツ夫人

デイビスはベルに会うことにした。 正直なところ、ベルのことに関して興味はなくなっていたが、リッキーの居場所を知っているに違いなかったからだ。

ベルはデイビスを見ると喜びをあらわにした。 1970年のことはデイビスのためにやったことで、マイルズはその2年後に死んだと言う。 死んだ理由はわからない。 最後に発明した「万能フランク」はコールドスリープ前に消え去ってしまったが、デイビスが盗んだのだと言う。

結局ベルからは、リッキーのお祖母さんの名前がヘイニカーとかなんとかいう名であることを聞いて、その場を後にする(どうやら H で始まる名前のようだ)。

第8章 手がかり

デイビスはリッキーを本格的に探し始めた。 リッキーに譲渡されるように手配していた株券は ハイニック という人間に渡っていた。 ベルの仕業に違いない。 ベルは何もかも根こそぎ奪おうとしているのか!

「アラジン工業」という会社が所有しているロボットの特許について調べてみると、なんと自分(デイビス)が発明者になっている。 次に「製図機ダン」の特許についても調べてみると、それも自分が発明したことになっている。 確かに自分と同じような発想の発明品だが、こんなものを作った覚えはない。 コールドスリープで記憶喪失になってしまったのだろうか?

よき同僚である チャック に相談してみると、コールドスリープではなく、すでに時間旅行(タイムトラベル)ができるようになっているのだという。 ただし、それは軍の機密事項になっており、一般には知られていない。 そのマシンには欠点があり、2つのものを同時に転送しなければならず、どちらか一方が過去へ、もう一方が未来へ行ってしまうという。 そして、行ったが最後で元の時間には戻って来られない。 しかもどの年代に飛ぶかもうまく制御できないらしい。

デイビスは初めのうちは30年前に戻って事実を明らかにすればいいと思っていたが、チャックの話を聞いているうちに、それがとても馬鹿げた考えだと気がついた。

デイビスは新聞の蘇生者リストの中から F・V・ハイニック という名前を見つけた。 デイビスにはそれがリッキーの祖母の名前だということが直感的にわかった。 ハイニックというのは、リッキーに渡すはずだった株券の所有者の名前だ。 慌てて冷凍場に電話をすると、ハイニックはすでに出て行ったという。 何が起きているんだ?

第9章 時間旅行

冷凍場に行くと、リッキーの写真を見せてもらうことができた。 彼女は20くらいの歳になっていたが、デイビスにはすぐにそれがリッキーだということがわかった。 どうやらリッキーは、祖母が死んだ直後にコールドスリープに入り、今はブローリーにいるらしい。 調べてみると、ユマですでに誰かと結婚していた。 崩れ落ちるデイビス。

デイビスはリッキーを探すことを諦め、トウィッチェル博士 と会うことにした。 同僚のチャックが、タイムマシンを作ったと言っていた人物で、一週間後には研究室を見学させてもらえることになった。 なんとか時間旅行の話に持ち込み、「時間転移の射程は正確に測定できないでしょう」と煽ると、博士はそんなことはないと言う。 そして、2枚の貨幣をマシンにかけて目の前から消してみせた。 今から一週間プラスマイナス6秒の誤差で転送したのだという。 一枚は一週間後にここにいれば現れるのを見ることができる。 もう一枚は博士のポケットに入っていた。 一週間前に博士はその貨幣をすでに手にしていたのだ。

博士は過去の苦い経験から二度と人間をこのマシンで転送しないと決めていた。 だがデイビスは博士をわざと怒らせて、その流れで自分を過去に転送させようとした。 自分が以前コールドスリープに入った日の6ヶ月前だ。 博士は憤り、デイビスをコールドスリープにかけた。

第10章 準備

デイビスの身体は転落し、どこかに叩きつけられた。 目を開けると、素っ裸の2人の男女が立っている。 全く恥ずかしがる気配がなく、どうやら過去ではなく未来に来てしまったようだ。 と思ったら、そこは単なるヌーディストクラブで、実際には1970年らしい。 うまくいった!

その男 ジョン・サットン は弁護士で、とても協力的であったおかげで、デイビスは数週間後には事務室を一室借りることができた。 まずはそこで「製図機ダン」の制作に取り掛かった。

▼ここで、これらの発明品の特許にデイビスの名前があったことが明らかになる。

デイビスは偶然にも若い頃のトウィッチェル博士に出会った。 30年後の世界で、博士が「どこかで会ったことがある」と言っていたのは正しかった。 また、私立探偵を雇ってベル(元婚約者)のことを調べさせると、想像した通り結婚詐欺の常習犯だった。

デイビスとジョンは、「製図機ダン」や「護民官ピート」を売るための会社を作ることにした。 会社の名前はもちろん「アラジン自動工業商会」で、場所はロサンゼルスだ。 あの忌まわしい1970年12月2日まで時間がない。急がなければ。

第11章 約束

1970年12月3日の夕刻、デイビスはロサンゼルスのマイルズ家の近くまでタクシーでやってきた。 あの壮絶な口論が繰り広げられる(た)ところだ。 しばらくすると、一台の車がやってきて停車した。 近づいてみると、まさしく自分の車だ。

デイビスはいつも車のトランクにスペアキーを入れていたので、その鍵を取り出して車に乗り込んだ。 マイルズの家のガレージに回ると、そこには(過去に)会社を乗っ取られたときに姿を消した発明品「万能フランク」があった。 デイビスはフランクをバラバラに分解して車に詰め込んだ。

▼最終的にフランクが消えたのはデイビスのせいだったということが明らかになる。

騒動の中で家から飛び出してきた猫のピートと車に乗り込み、ビッグベアのガールスカウトのキャンプへ向かった。 リッキーがいるところだ。 そこへ向かう道中で、フランクの部品を片っ端から投げ捨てていった。

リッキーはすでにマイルズとベルの結婚のことを知っていた。 ベルのことが嫌なので、お祖母さん(ハイニック)のところで暮らすつもりだという。 デイビスはリッキーに30年間のお別れになることを説明し、ハイヤーガールの株券の裏書きとしてリッキーの名前を書いた。 本名は フレデリカ・ヴァージニア・ハイニック

▼ここで、株券がハイニックという人物に渡っていた理由や、蘇生者リストにあった F・V・ハイニックというのがリッキー自身であったことが明らかになる。

どうしてもデイビスとピートと別れたくないというリッキーに、デイビスは将来コールドスリープに入ればいいという提案をする。 それは、リッキーが21歳になったとき、つまり、お祖母さんが亡くなって、株によるお金も溜まっている頃だ。 リッキーが未来に来たときに結婚するという約束をして2人は別れた。

デイビッドは町の冷凍場(サンクチュアリ)へ向かい、今度は猫のピートとともに再び30年の眠りについた。蘇生日程は2001年4月27日。 リッキーのいるあの暖かい夏の扉を開くんだ。。。

第12章 夏への扉

デイビスは何事もなく目を覚ました。 そして、リッキーの蘇生予定日の5月1日に冷凍場へ行き、無事2人(と1匹)は再開を果たした。 2人はユマの群役場へ行き、正式に籍を入れた。

▼リッキーが結婚した相手はデイビスだった。

デイビスはトウィッチェル博士にこれまでの経緯や謝罪の手紙を送り、博士に関する本を書くことにした。 タイトルは『埋もれた天才』だ。

リッキーとこれまでのことをいろいろと話した。 ある時点で自分は2人いたことになる。 そういえば、もうひとりの自分がサンクチュアリを出たという記事を見なかった。 でもそんなタイムパラドックスに関して心配などしない。 僕の夏への扉は見つかったんだ。

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