何をするか?
Go 言語 (Golang) で簡単な Web サーバーを作成して、それを動かす軽量な Docker コンテナイメージを作成します。
Dockerfile
には マルチステージのビルド構成 を適用し、Go 言語アプリのビルドと、実行イメージのビルドのステージを分けます。
実行用のコンテナイメージとしては、Alpine Linux ベースと、scratch ベースの 2 種類のイメージを作成してみます。
Golang は軽量なシングルバイナリを生成するのに適した言語で、Docker イメージの生成にも向いています。 Node.js などでイメージを作ろうとすると、Hello World でも 100MB 超えになってしまいますが、Golang を使えば、その 1/10 程度のサイズのイメージを生成できます。 軽量のイメージを作れるようになると、頻繁なビルドとデプロイを気兼ねなく行えるようになります。
Golang アプリを準備する
Golang で作るアプリは何でもよいのですが、ここでは Golang 標準の net/http
パッケージを使って、Hello World
というレスポンスを返すだけの簡単な Web サーバーアプリを用意します。
まずは、お馴染みの go.mod
の作成から。
$ mkdir hello && cd hello
$ go mod init hello
あとは、次のような main.go
ファイルを作成すれば完成です。
go run .
でサーバーを起動して、Web ブラウザーなどで http://localhost:8080
にアクセスすれば、Hello World
というレスポンスが返ってくることを確認できます。
Alpine Linux ベースの実行イメージを作成する
ここでは上記のような Dockerfile
を作成してイメージをビルドします。
Go アプリをビルドするための build ステージと、実行用の Docker イメージをビルドするための deploy ステージに分かれています。
このようなマルチステージのビルド構成にすると、最終的にできる実行用のイメージに Go アプリのビルド環境を入れなくてすむので、イメージサイズを小さくすることができます。
最終的に生成される実行イメージはコンパクトな Alpine Linux をベースとしており、これもイメージサイズの削減につながっています。
以下、2 つのステージを順に見ていきます。
アプリをビルドするための 1st ステージ
FROM golang:1.19-alpine AS build
WORKDIR /work
COPY . .
RUN GOOS=linux GOARCH=amd64 go build -ldflags '-w -s' -o hello
1st ステージでは、Golang のビルド環境で main.go
ファイルをビルドします。
ここでは親イメージに Alpine Linux ベースの Golang ビルド環境である golang:1.19-alpine
を指定していますが、最新のタグは、Docker Hub の golang イメージ のページで確認してください。
処理内容は単純で、ホスト側のファイルをコンテナ側へコピー (COPY . .
) して、そこに含まれる main.go
ファイルをビルドしているだけです。
ワーキングディレクトリを WORKDIR /work
で移動しているので、ビルド後の実行ファイルのパスは /work/hello
になります。
go build
時に -ldflags '-s -w'
オプションを指定すると、デバッグ用のシンボル情報を除いて実行ファイルのサイズを小さくできます(20%程度?)。
このフラグは、内部的には go tool link に渡されます。
# 通常ビルドした場合
$ go build -o hello
$ du -h hello
5.9M hello
# デバッグシンボル情報を削った場合
$ go build -o hello -ldflags '-s -w'
$ du -h hello
4.4M hello
この 1st ステージには、FROM
命令の AS build
オプションで build
というエイリアス名を付けています。
以下の 2nd ステージからは、このエイリアス名を使って 1st ステージで生成したファイルを参照できます。
実行用のイメージをビルドするための 2nd ステージ
FROM alpine:3.16
COPY --from=build /work/hello /app/hello
CMD ["/app/hello"]
2nd ステージでは、1st ステージで生成した Golang 製のアプリ(/work/hello
) を実行するための Docker イメージをビルドします。
このイメージには、もう Golang のビルド環境は必要ないので、軽量 Linux である Alpine Linux を親イメージとして指定します(5MB くらい!)。
ここでは、alpine:3.16
を指定していますが、最新のタグは Docker Hub の alpine イメージ のページで確認してください。
COPY
命令では、--from=build
指定により、1st ステージ (build
) の /work/hello
ファイルを、2nd ステージの /app/hello
へコピーしています。
最後の CMD
命令で、コンテナ起動時に /app/hello
を起動するように指定しています。
イメージのビルド
Dockerfile
の作成が終わったら、docker image build
コマンドでビルドして Docker イメージを作成します。
ここではイメージ名を hello
としています。
$ docker image build -t hello .
イメージのビルドが完了したら、ちゃんとできているか確認します。
$ docker image ls
REPOSITORY TAG IMAGE ID CREATED SIZE
hello latest b8e4afa8a2a3 3 seconds ago 9.75MB
Docker イメージの完成です! イメージサイズは 10MB 弱なので、まぁまぁコンパクトなイメージになっています。 これは、Go アプリと Alpine Linux の合計サイズです。 次のようにすれば、このイメージからコンテナを起動できます。
-p 8080:8080
オプションで、ホスト PC の 8080 ポートを、コンテナ内の 8080 ポートに転送しているので、ホスト PC 上の Web ブラウザーで http://localhost:8080
を開けばアクセスできます。
コンテナは Ctrl + C で停止できます。
起動時に --rm
オプションを指定しておいたので、コンテナは停止と同時に削除されます。
Scratch ベースの実行イメージを作成する
上記では、Alpine Linux + Go アプリという構成のイメージを作成しましたが、scratch イメージというのを親イメージとして指定すると、OS を含まない Go アプリだけのイメージを作成できます。 正確には、カーネル自体は Docker ホスト側のものが使われるので、その機能だけで動作させられる実行ファイルであれば、scratch ベースのイメージにすることができます。 Linux の各種機能(ライブラリやシェル)が使えなくなるので、トラブル発生時の調査などが難しくなりますが、非常に軽量なイメージ を作成することができます。
scratch イメージを使用するときに注意しなければいけないのは、Go アプリをビルドするときに 外部ライブラリを静的リンク しておく必要があるということです(ライブラリがまったく入っていないので)。
この設定は、上記のように -ldflags
オプションの引数に -extldflags "-static"
を追加することで行えます(オプション指定が入れ子になってるので分かりにくいですね ^^;)。
多くの場合はこの指定をしなくても静的リンクでビルドされるようですが、cgo パッケージ(C ライブラリ連携)などを使っていると自動的に動的リンクになるなどの振る舞いをするので、明示的なオプション指定をしておいた方がよさそうです。
ライブラリの動的リンクが残っていると、コンテナ起動時に exec /hello: no such file or directory
といったエラーが発生します。
上記の Dockerfile
をビルドすると、小さな Docker イメージができあがります。
$ docker image build -t hello .
$ docker image ls
REPOSITORY TAG IMAGE ID CREATED SIZE
hello latest 757922277d94 4 seconds ago 4.46MB
10MB 弱だったのが、5MB 弱まで小さくなりました! ちょうど Alpine Linux のサイズ分だけ小さくなっています。
go build
コマンドで指定するオプションによって生成される実行ファイルの形式が変わってきます。
実行ファイルのフォーマットは、file
コマンドで確認できます。
# macOS で何もオプション指定せずにビルドした場合
$ go build -o hello
$ file hello
hello: Mach-O 64-bit executable x86_64
# OS やアーキテクチャを指定してクロスコンパイルした場合
$ GOOS=linux GOARCH=amd64 go build -o hello
$ file hello
hello: ELF 64-bit LSB executable, x86-64, version 1 (SYSV), statically linked, Go BuildID=MjRBk0jRAbyfXWsLUypa/ZDyt22XXA4ZiyzbfYl8i/5chB8hOVmP2fY1XwpT95/R7p5BmDr9QZtUfrx80RH, not stripped
おまけ
Docker Compose でビルド&実行をワンステップで行う
Docker Compose を使う と、Docker イメージのビルドからコンテナ起動までをワンステップで実行できるようになります。
Dockerfile
と同じディレクトリに、次のようなファイルを作成すれば準備完了です。
あとは、docker image
や docker container
コマンドの代わりに次のような docker compose
コマンドを使います。
イメージ名やコンテナ名は、ディレクトリ名と docker-compose.yml
に記述したサービス名から自動生成されるので、コマンド実行時に指定する必要はありません。
今回の例の場合は、イメージ名は hello_web
、コンテナ名は hello-web-1
という感じになります。
$ docker compose up # イメージビルド&コンテナ起動(-d でバックグラウンド起動)
$ docker compose ps # コンテナの一覧を表示
$ docker compose stop # コンテナを停止
$ docker compose start # 停止されたコンテナを起動
$ docker compose rm # 停止されたコンテナを削除
$ docker compose down # コンテナの停止&削除
とりあえず、docker compose up -d
で起動、docker compose down
で停止&削除を覚えておけばなんとかなります。
コンテナから HTTPS 通信するとき
コンテナ内のアプリから HTTPS 通信するときは、Root CA 証明書や、タイムゾーン情報が必要になります。 親イメージにこれらのファイルがない場合は、何らかのイメージからファイルをコピーすることで対応できます。
FROM scratch
COPY --from=golang:1.19 /etc/ssl/certs/ca-certificates.crt /etc/ssl/certs/ca-certificates.crt
COPY --from=golang:1.19 /usr/share/zoneinfo /usr/share/zoneinfo